大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

金沢家庭裁判所七尾支部 昭和51年(少)168号 決定 1976年8月02日

少年 S・F(昭三一・二・六生)

主文

事件本人を昭和五二年八月一日まで中等少年院に送致する。

理由

1  非行事実

事件本人は昭和五〇年六月一八日当庁において窃盗罪で保護観察に付する旨の審判を受け、現に保護観察中の者であるが、同年一一月末ころまでの間、大工、左官見習のため金沢市、名古屋市内に住み込んだが定着し得ず、その間保護者の意に反し自動車運転を続けるうちに同年一一月二七日愛知県内で追突、ひき逃げ事故を起し、それがため同年一二月ころ現住所地へ帰住したが、それ以後保護者などの指導、監督にかかわらず、職に就かず無為のうちに時日を過し、保護者から遊興費を得るため暴行、脅迫に及び、また昭和五一年五月二三日自動車免許停止中に普通乗用自動車を運転するなど、その性格、環境に照らし将来罪を犯す虞がある。

2  適条

少年法三条一項三号イ

3  中等少年院へ送致した理由

本件記録によると次のとおりの事実を認めることができる。

事件本人は中学校卒業後、昭和四九年四月までの三年間、名古屋市内の○口方に住み込み大工見習をし、その後は職場を転々としているうち、小遣銭などに困り、自動車タイヤなどの窃盗を敢行し、昭和五〇年六月一八日当庁で保護観察処分とされた。しかし本人は当初から保護観察に対し消極的態度に終始し、同五一年五月ころには担当保護司に面会すらせず、これを明白に拒否する態度に出るに至つた。

事件本人は、性格特性として、気弱、過感、強迫的傾向、我儘、軽佻などが顕著であり、保護観察審判の後においても、勤務先の者が自己を冷たく扱うなどとして定職に就かず、過度に被害感を抱き、自己の行為を内省することなく、他に責任を転嫁する傾向が著しい。他方事件本人は自動車に対する興味は極めて強く、昭和五〇年六月一八日の前記審判の日に保護者を強要して、普通乗用自動車を購入せしめ、これの運転を続け、前記事故を起したのに、その後無免許運転をして罰金に処せられるなど、規範意識も極めて低い。事件本人の父は富山県に勤務し、住所地には週に一、二度帰るのみであり、母は本人から暴行、脅迫を受けるなどしたため、いずれも本人に対する指導監督を行うことは期待しえず、保護観察による指導、援助も事件本人の場合には充分な効果を望みえない。

以上の事実に照らし、事件本人を健全な社会人として更生させるには主文のとおりの期間中等少年院に収容して専門の教育、訓練を受けさせるのが妥当であると考える。

よつて犯罪者予防更生法四二条、少年法二四条一項三号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 大出晃之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例